1、はじめに
ひとくちに○○マニアや○○オタクといっても、真に関心をもっているポイントというのは人によって違っているもの です。鉄道ファンなどはその好例で、いわゆる「撮り鉄」や「乗り鉄」、「録り鉄」など、非常に多くのジャンルに分類 されています。城(跡)ファンもこの例にもれず、城(跡)の何に惹かれるかは人それぞれです。マニアやオタクとまで はいかずとも、何となく城が好きという一般の人たちでも、城にロマンを感じる人もいれば栄枯盛衰・諸行無常を覚える 人もいるでしょう。 近年、城(跡)に関する書籍やHPなどもかなり増えてきているように思います。平成の築城ブームや最近の天空の城 ブームなどで、一般のコンセンサスもかなり広がっているように感じられますが、それでも城(跡)のとくにどのような 部分にスポットライトが当てられているのかは、それぞれの著者や管理人によって異なります。城郭ファンの場合には、 たとえば天守などの建物の優美さに惚れ込んでいる人たちや軍事要塞としてどのように堅固であったかを探るのが好きな 人たち、あるいは埋もれた遺構を見つけ出すことに意義を見出す人もいれば、とにかく有名な城を数多く訪ね歩くことが 楽しいという人もいるでしょう。すなわち、書籍にしろHPにしろ、作者自身が城(跡)の何に興味があり、どのような 点に注目してまとめていることを明らかにすることは、閲覧者にとっても、また当の作者にとっても重要であると考えて います。当HPを立ち上げてからだいぶ年月を経てしまってはいますが、今回はこの点を改めて明らかにしておきたいと 思います。
2、当サイトのスタンス
では、自分はいったい城(跡)の何に関心をもっているのか。突きつめると、「なぜそこに城が築かれたのか」という 点にあるのだと思います。「そりゃ、戦って守るためじゃん」と思われるかもしれませんし、もちろん城はそこに籠って 戦うための施設です。ですが、城に求められているものは要害堅固であることだけではありません。むしろ、要害性以外 の目的で築かれた城の方が多いといっても過言ではないのです。 戦うことが主目的でない城とは、たとえばよく引き合いに出されるものとしては、中央に危急を知らせる狼煙台として の「伝えの城」や他大名との国境にあって出入りを監視する「境目の城」、あるいは遠征の際に軍勢を集積・駐屯させる ための城など、用途は多岐にわたります。今挙げたものは、戦場とすることが第一目的ではないにしても、軍事的要素が 強い部類といえます。それに対して、城のなかには軍事以上に政治・経済的な目的で築かれたものが数多く存在します。 その代表例は、実は大名や中小領主の居城(居館)です。居城とは、文字通り普段住んでいるところであり、領国経営の 中心でもあります。したがって、居城にまで敵を引き込んで戦うとためいうよりは、政治・経済の要衝を押さえるという 役割の方が重要といえます。なかには、居城でありながら要害堅固な要塞でもあるという城もいくつかありますが、交通 の要衝にあって経済の発展も望め、なおかつ要害険阻の地でもあるなどという場所はそうあるものではありません。この ほかにも、街道監視や領国経営の出先機関、水利確保や何らかの立場をアピールするためなど、軍事以外の役割をもった 城もまた、軍事用と同じくらいかむしろそれ以上に築かれているといえます。 城は、築くにも維持するのにもコストがかかります。築城費用に加え、多くの人数や時間を必要とします。また、城が 完成すればしたで、番兵を置いたり管理修繕したりと、ランニングコストもかかります。歴史的事実をみても、要らなく なった城は容赦なく破棄されています。裏を返せば、何らかの必要性があったからそこに城が築かれ、必要性がなくなれ ば廃されるという、一貫したサイクルが存在します。私は、その城が誰によってなぜ築かれ、また誰によってなぜ廃され たのかという、城のもつ政略的な面にとくに惹かれているように感じています。
3、「なぜそこに城が築かれたのか」という視点
築城と廃城の理由と経緯に目が向いているなら、城の縄張りや遺構は重要じゃないのではないかと思われるかもしれま せんが、そんなことはまったくありません。たとえば、縄張りが簡素であるか複雑であるかによって、その城が軍事的に 用いられることを期待されていたかどうかが分かりますし、大手口が開いている箇所によって政略的な関心がどの方面に 向けられていたのかを拝察することができます。また、遺構や縄張りの特徴は、その城の築城者(改修者)やその時期を 推測するのに役立ちます。 城郭ファンの多くは、城跡を示す遺構がまったく残っていない場合、ひどくがっかりして容易に最低評価を与えます。 もちろん、遺構が残っていることに越したことはありませんが、「なぜそこに城が築かれたのか」という視点に立てば、 遺構の有無は十分条件ではあっても必要条件ではありません。地図を広げ、城跡とされる地点の周辺の地勢や街道の走り 具合、周辺領主との位置関係などを総合すれば、そこに城が築かれたことの意味を推し測ることができるのです。それが 分かれば、今度は逆算して、その城がおよそどのようなものであったのかを想像することも、私にとっては楽しみの1つ といえます。
4、おわりに
ごく簡単にですが、ここに私の城跡めぐりに対するスタンスをご紹介させていただきました。こうして改めてまとめて みると、私の視点は決してメジャーとはいえない城跡オタクのなかでも、かなり特殊な部類なのではないかと焦りのよう な不安のような気持ちが湧いてしまいます。ですが、だからといっていまさら方向転換もできませんので、お城の楽しみ 方にはこのような見方もあるのだと、温かい目でご覧いただければ幸いです。