御岳城(みたけ)
 別称  : 御岳山城
 分類  : 山城
 築城者: 不明
 遺構  : 曲輪跡、空堀
 交通  : 御岳登山鉄道御岳山駅徒歩15分


       <沿革>
           御岳神社の鎮座する御岳山は江戸時代から城跡と目されてきたが、近年まではっきり
          確認されることはなかった。『新編武蔵国風土記稿』によれば、建久二年(1191)に畠山
          重忠が杣保に領地を賜り、御岳山に城を築いたとされる。また、応永二十三年(1416)の
          上杉禅秀の乱に際し、関東管領上杉憲基が御岳山に陣をとったとある。
           幕末期から断続的に幾人かの歴史家が御岳城の存在について指摘してきたが、周知
          されるには至らなかった。戦後に入って、中世城郭研究家の中田正光氏らが遺構を確認
          したことで、御岳城がクローズアップされるようになった。

       <手記>
           御岳城は、標高929mの御岳山に鎮座する御嶽神社を城塞化したものです。御嶽神社
          は今なお信仰を集める有数の古社であり、全山一帯に宿坊や土産屋が立ち並んでいる
          ため、削平の状況から城であるか否かを判断することは困難です。
           御岳城が城跡であることをもっともよく示しているのは、本殿北西の峰を断ち切る堀切と
          御岳山の北方に位置する富士峰南側の堀切です。削平地はいくら指摘しても神社のもの
          である可能性を打ち消すことはできませんが、この2つの堀切は明らかに神社には必要
          ないものです。また、長尾平と呼ばれる神社南の細長い尾根筋にも堀切跡と思しき箇所
          がありますが、こちらは公園化しているため判断がつきません。
           富士峰の南方の堀切から南側には数段の削平地が見受けられ、堀が城のものとなれ
          ば、おそらく曲輪跡と思われます。他方で、これらの曲輪より高所にある富士峰頂上は、
          あまり削平されたようすが見受けられず、少々不思議な感じがします。
           さて、御岳山に城があったとして、最大の問題はなぜこんな高山に城が築かれたのか
          という点です。付近を街道が通っている訳でもなく、あまりに高所で山奥にあるため陣営
          や烽火台としても相応しくありません。神社があるほかは、とくにここに城を築いて守らな
          ければならない権益があるとも思えません。
           これについてたとえば中田氏は、戦乱時に近隣の村人たちの避難場所として機能して
          いたと推測しています(『村人の城・戦国大名の城』)。典拠は不明ですが、後北条氏の
          時代には、清戸三番衆の三田氏や藤橋氏、野口氏、師岡氏といった周辺領主が交代で
          城番にあたっていたとしています。
           また、同じく中世城郭研究家の田中祥彦氏は、禅秀の乱のときに御嶽神社の社家が
          軍役に従って功を成したことが『記稿』に記されていることから、神社関係者が自衛目的
          で城塞化したものではないかと考察しています(『多摩丘陵の古城址』)。
           史料上の裏付けがない以上推論の域をでませんが、私はどちらかといえば田中氏の
          意見に近い見方をしています。比高650m以上という高さは城としては特異ですが、こう
          した高所の寺社が好んで城に転用された時代がありました。南北朝時代をピークとした、
          鎌倉時代末期から室町時代中期にかけてです。東国の南朝方の拠点となった霊山城
          (標高825m)が代表例といえます。ですから、上杉禅秀の乱に際して御嶽神社を城砦
          として取り立てたというのは、十分有り得る話であると考えられます。
           ただ、現在も残る2つの堀切、とくに本殿北の堀切は、大きさからみて16世紀までは
          時代を下るものではないかと思われます。前出の中田氏の論が正しければ、御岳城は
          北条氏時代まで存続していたことになります。中田氏は御嶽神社が近隣住民や北条
          氏照の信仰を集めていたことから、聖なる山として戦時に逃げ込む避難所として機能
          していたとみています。村人にとっても重要な城であったかは分かりませんが、社家の
          持ち城が北条氏の庇護下で懇ろに扱われ続けた可能性はあると思われます。

           
 ケーブルカー駅付近から御岳山山頂を望む。
御嶽神社。 
 神社北側の峰の堀切。
長尾平の堀切と思われる部分。 
 富士峰南の曲輪跡。
富士峰南の堀切。 
 御岳山駅付近からの眺望。


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