鳩ノ巣城山(はとのす)
 別称  : なし
 分類  : 山城
 築城者: 不詳
 遺構  : 削平地、堀跡か
 交通  : JR青梅線鳩ノ巣駅徒歩60分


       <沿革>
           『新編武蔵国風土記稿』には「城山」として、「相伝ふ平将門当所に来りしとき 砦にかまへ
          たる所なりと 其詳なることしらず」とある。また『武蔵名勝図絵』には、「館跡」として承平年間
          (931〜38)にやはり将門が館を構えたところとしている。
           将門がここに拠ったというのは信用しがたいが、『日本城郭大系』では鎌倉時代以降多摩川
          上流に勢力をもっていた三田氏が、将門の後裔を自称していたためであろうと推察している。
          実際には『大系』でも指摘されているとおり、三田氏ないし後北条氏が築いたものと考えられ
          るが、詳細は不明である。

       <手記>
           JR鳩ノ巣駅の川向こうに、モリモリと聳える山塊の頂上が城山と呼ばれています。駅から
          多摩川に架かる雲仙橋を渡ってまもなく、山側の低いブロック石垣に階段が付いているところ
          があり、そこが登山口です。城山周辺は首都圏周縁のハイキングコースとして知られている
          ようで、この登山口についても、ハイキング関連のサイトで知りました。これらのサイトの情報
          ではかなりの悪路だとあったので、かなり覚悟して行ったのですが、いざ登ってみると頂上
          まで途切れることなく踏み跡は続いていて、朽ちかけてはいるものの階段が付いている箇所
          さえありました。城跡は這い上ってなんぼの我々中世城館愛好家からすれば、ハイキングの
          人たちというのは普段どれだけていねいに整備された山を登っているのだろうと訝ってしまい
          ます(笑)。途中で唯一出会った下山中の人は、この道を登るのは大変そうだったので裏手
          からぐるっと迂回するルートで来たとおっしゃっていました。麓からは、小さな祠と旧道と思しき
          浅い切通しを経て、尾根筋の山道に入ります。
           道はあるとはいえ、比高450mほどの尾根の直登なので、しんどいのは間違いありません。
          延々と登りが続くせいもあって、途中にあるちょっとした平場がいちいち遺構に見えてしまって
          仕方ありませんでした。ただ、山頂までは結局何ともいえない感じです。山頂はわりと面積の
          ある平坦面となっていますが、これが人工の削平地であるのか否かはわかりません。頂上の
          標柱はありますが、城址碑等はありません。
           背後もまた、細い尾根が累々と続く感じで、堀切跡らしきものは見受けられませんでした。
          1か所、頂上裏の急斜面を降りきる付近に、天然の露岩を利用した虎口のようなところがあり
          ますが、遺構と言い切れるものではありません。
           登山途中にも1か所だけ、長くて深い竪堀状地形がありました。ただし、山頂からはかなり
          離れたところにあり、城の遺構とみるのは早計と思われます。この竪堀状地形のすぐ上には
          電線鉄塔があり、これを建設するにあたって資材引上げのためにつくられた可能性が高そう
          です。
           また、登りはじめて尾根に取りつくところのすぐ脇に、煉瓦造りの焼却場と見間違えそうな
          お堂があります。ここの尾根筋には堀切状の切れ込みが見られるのですが、ここに堀を穿つ
          必要性はより薄いように思われるので、遺構かどうかはかなり怪しい感じです。
           さて、鳩ノ巣城山は平将門が築いたというのは信じがたいとして、誰が何のために設けた
          のかという点がポイントになると思われます。城山の特徴として、比高差がかなりあることと、
          麓からは奥まっていて頂が見えづらいという2点が挙げられます。これらの特徴は、狼煙台や
          街道監視には不利な点といえます。さらに敷衍すると、物見台だったとしても、ここから他の
          城へ伝える手段に乏しいというのは、かなり問題といえます。
           ここで、私が注目しているのは、城山とは峰続きにあたる南東の御岳山です。鎌倉時代
          以降山岳信仰の拠点として栄えた御岳山には、近年城郭遺構があることが明らかとなって
          います(御岳城)。御岳山からは、直接城山を視認することができ、先の情報伝達の不利に
          ついても、城山で旗を振るなり鐘を鳴らすなりすれば、危急を伝えることも難しくありません。
          あるいは尾根伝いに足で直に連絡することも容易だったと思われます。したがって、御岳山
          との間に限っていえば、鳩ノ巣城山も物見台としての用をなし得たものと推測されます。
           御岳城が誰の城であるかについてはまた説の定まらぬところですが、鳩ノ巣城山について
          は御岳山との関連で捉えるのが、もっとも合理的であるように思います。

           
 駅周辺から鳩ノ巣城山を望む(一番奥の頂部)。
雲仙橋から城山を見上げる。 
ただし、このアングルから城山頂上は見えません。 
 頂上の標柱。
背後の斜面。 
露岩を利用した虎口跡か。 
 中腹の竪堀状地形。
 鉄塔建設のために後世造られたものか。
同じく別アングルから。 
 削平地跡か。
同上。 
 麓近くの切通し道。
 遺構ではなく、旧道と思われます。
切り通しと登山口の間の祠。 
 同じく旧道の切通しか。
おまけ:鳩ノ巣渓谷の滝。 


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