ウォルマー城
(Walmer Castle)
 別称  : なし
 分類  : 平城
 築城者: ヘンリー8世
 交通  : ウォルマー駅徒歩25分
 地図  :(Google マップ


       <沿革>
           イングランド王ヘンリー8世によって、1539〜40年にかけて築かれた。ヘンリー8世は
          当時、自身の離婚・結婚問題で神聖ローマ皇帝カール5世との関係が悪化していた。
          そのため、神聖ローマ帝国とその同盟国フランスの侵攻に備える目的で、ウォルマー
          城を含む20以上の城砦ラインを構築し、これを「デバイス(Device Forts)」と呼んだ。
          その後、ヘンリー8世とカール5世の関係は修復し、1544年には逆に共同でフランスに
          出兵した。そのため、このときはウォルマー城が実際に攻められることはなかった。
           イングランド内戦さなかの1648年、王党派に属していたウォルマー城は議会派の軍
          に包囲され、3ヶ月持ち堪えたものの開城した。これが、ウォルマー城が経験した最初
          で最後の実戦とされる。
           18世紀に入ると、ウォルマー城は五港長官(Lord Warden of Cinqe Ports)の官邸と
          なった。五港同盟(シンク・ポーツ)は、12世紀に始まるイングランド南東沿岸の5つの
          港を中心とする連合体で、イングランド王に軍船と船員を提供する代わりに海運上の
          特権を与えられていた。以降、それまで純粋な要塞であったウォルマー城に、居住用
          の部屋や庭園が整備されていった。
           1801年に国王ジョージ3世との意見対立により辞任したイングランド首相ウィリアム・
          ピット (小ピット)は、五港長官でもあったことからウォルマー城に逼塞した。ピットは
          1804年に首相に返り咲いたが、その2年後に没した。1829年に五港長官を兼任した
          首相ウェリントン公アーサー・ウェルズリーは、ウォルマー城を「最も魅力的な海軍の
          公邸」と呼び、好んで滞在した。ときのビクトリア女王も、ウォルマー城にウェリントン公
          を訪ねている。ウェリントン公は1852年9月14日に、この城で逝去した。
           現在はイングリッシュ・ヘリテイジによって管理されている。五港長官職も今日まで
          続いていて、2004年からはマイケル・セシル・ボイス(ボイス男爵)が務めている。

       <手記>
           ウォルマー城は、ドーバー城の北東7kmほどのところに位置しています。まがりなり
          にも山城のドーバー城に対して、ウォルマー城はただの浜辺にあり、地形上の要害性
          はほぼゼロといっても過言ではないでしょう。このことは、同時に築かれたディール城
          やサンダウン城など他のデバイス群にも共通しています。日本に火縄銃が伝来する
          直前の築城ですが、すでに鉄砲や大砲での攻防戦を想定した選地である可能性は
          高いように思われ、興味深い点です。
           近代以降のウォルマー城は城塞から邸宅へと造りかえられたとはいえ、外観は要塞
          の体を保っています。中心の円塔の周囲に4つの円いバッテリーが付属する2層構造
          で、上から見ると初雪草の花のような形状をしています。
           最も魅力的と称されるだけあって美しいシンメトリーの要塞ですが、すぐ北1.5kmの
          ところにあるディール城の方が3層構造でバッテリーの数も総計12と規模が大きく、
          華麗で防御力も高いように思われます。要塞の前の砂浜も、今ではディール城の方が
          だいぶ綺麗なように見えるので、なぜウォルマー城の方が五港長官官邸に選ばれた
          のか個人的にはちょっと疑問です。
           現在のウォルマー城は「ウォルマー城および庭園」としてイングリッシュ・ヘリテージ
          に登録され、一般に公開されています。とはいえ入城料は1人11ポンドとかなり高額
          だったので、逡巡したのちに姫路城より高いお金を支払うことに抵抗を感じてあきらめ
          ました。

 城門付きのバッテリーと石橋。
城塞と空堀。 
 同上。
バッテリーの1つ。 
 海側から城を望む。


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